多系統萎縮症(MSA)では、発症初期から 歩行の不安定さ・ふらつき・小刻み歩行 が現れ、転倒リスクが高くなります。
この記事では、歩行障害の背景・進行しやすい理由・訪問鍼灸の役割を詳しく解説します。

まずMSAそのものの病態や東洋医学的メカニズムについて知りたい方はこちら
多系統萎縮症について鍼灸の観点から徹底解説」


■ なぜMSAで歩行障害が起こるのか?

MSAの歩行障害は、以下の 複数の症状が同時に起こること が原因です。

① 小脳性運動失調

小脳が障害されると、協調運動がうまく働かず、歩行の安定性が大きく低下します。
典型的には以下のような特徴が見られます。

  • 歩幅やリズムが一定にならない(歩行のバラつき)
  • 重心の揺れが大きく、まっすぐ歩きにくい
  • 方向転換でふらつきやすくなる
  • 足幅を広くとって歩く(ワイドベース歩行)ことが多い

これらは小脳失調に典型的な“失調性歩行”と呼ばれる状態です。


② パーキンソン症状(固縮・動き出しの遅さ)

MSAでは、パーキンソン病のような運動障害も併発し、

  • 小刻み歩行
  • すり足
  • 歩き始めの遅れ

といった特徴的な動作障害が生じます。


③ 自律神経の問題(立ちくらみ・疲労)

起立性低血圧や血圧変動により、

  • ふらつき
  • 集中力低下
  • 倦怠感

などが歩行の安定性を下げます。

自律神経の詳細はこちら
MSAの自律神経症状(排尿障害・立ちくらみ)


④ 筋力低下と活動量低下の悪循環

動きづらいために活動量が減り、特に以下の筋力が落ちやすくなります。

  • 大殿筋
  • 中殿筋
  • ハムストリングス

これが立ち上がりや方向転換に影響を与えます。


⑤ 不安・ストレスによる身体の硬さ

転倒経験、不安、緊張が動作を固くします。
心理的要因も歩行に影響することが知られています。


■ 訪問鍼灸がMSAの歩行障害に有効な理由

MSAの歩行障害は、筋肉の問題だけではなく
脳神経系・体性感覚の低下・自律神経・心理状態・生活環境
など多面的です。

訪問鍼灸は、この複雑な歩行障害に対して 包括的にアプローチできる という特徴があります。


① 深部筋を調整し、脳が姿勢制御しやすい身体を作る

大腿四頭筋・腸腰筋・殿筋群・ハムストリングスなどを調整し、
過緊張と弱化のバランスを整えます。

これにより、

  • 歩幅
  • 重心移動
  • 立ち上がり
    が改善しやすくなります。

筋肉だけへの施術では“一時的に良くなるだけ”で根本には届かない

鍼やマッサージで筋肉が緩むと動きやすくなりますが、
MSAの歩行障害は 脳神経系が動作を決めている ため、
筋肉だけの施術では 翌日には戻りやすい という限界があります。

これはMSA特有の特徴で、
「筋肉が原因で歩けない」のではなく
「脳の指令がスムーズに伝わらない」ため動作が乱れるからです。


脳神経系に働きかける“体性感覚刺激”で動作の再学習を促す

歩行を作っている主な脳神経システムは次の通りです。

  • 小脳:バランス調整と協調運動の制御を行う
  • 大脳基底核:動き出しの指令と、自動運動(歩行・姿勢反応)の調整を行う。
  • 脳幹・前庭系:姿勢反射を担い、身体が倒れないように支える。
  • 体性感覚:足の位置・重心情報を脳に伝え、姿勢と歩行の安定に必要な入力を行う。

鍼刺激は、皮膚・筋膜・筋紡錘などの受容器を通じて
「身体の位置情報」を脳へ送り返す(フィードバック) 効果があります。

これにより、

  • 重心が掴みやすい
  • 足が前に出しやすい
  • 方向転換がスムーズになる

など、“動きの質そのもの”が向上します。


④ 自宅環境で“本番の動作”を改善できる

訪問施術では、外来ではできない 生活環境での動作リハビリ が可能です。

  • ベッドからの立ち上がり
  • トイレ前の方向転換
  • 廊下での歩行
  • 玄関段差

動作をその場で繰り返すことで
脳神経系の再学習(ニューロリハビリ) が起こり、
施術効果が戻りにくくなります。


⑤ 不安・ストレスを下げ、動きの滑らかさを取り戻す

自宅で安心した状態で施術できるため、
心理的緊張が和らぎ、動作が滑らかになります。


■ 訪問鍼灸での主なアプローチ

● 過緊張筋の調整

  • 大腿四頭筋
  • 腸腰筋
  • 脊柱起立筋
  • 下腿前面筋

● 弱化している筋の活性化

  • 大殿筋
  • 中殿筋
  • ハムストリングス

体性感覚刺激による脳神経系の活性化(最重要)

  • 鍼刺激で位置覚・重心感覚を高める
  • 正しい立ち上がり・方向転換をその場で練習
    動作が“戻りにくくなる”根本アプローチ

● 呼吸・胸郭の調整(歩行の耐久性向上)

呼吸問題がある方はこちら
➡ MSAの嚥下・呼吸の記事


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■ お問い合わせ

MSAの歩行障害は、
筋肉・脳神経系・心理面・自律神経・生活環境が複雑に絡み合っています。

訪問鍼灸はこのすべてをカバーできる施術です。
歩行が不安定になってきた方、通院が難しい方はご相談ください。

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